乾いた音が辺りに響く。
紙でできた何かが勢いよくアツェムの側頭部を強打したのだ。
「〜〜!!痛いなぁ、いきなり酷いじゃないですか。」
頭をさすりながら自分をたたいた張本人にアツェムが講義する。
講義された主はアツェムをぶっ叩いた凶器を持った手を腰に当てながら「ふんっ」と鼻を鳴らして
「あんたねぇ、解読するのは良いけど、たまにはこっちも手伝いなさいよ。」
そう言って店内を指差した。
「いい、今日は昨日と違って休日じゃないんだからお客さん普通に多いの。で、うちの店は店長合わせて合計3人。」
フェリシアが両手を使い大仰に説明している。
アツェムは
「ふむふむ」
といつの間にか頭をさするのを止め、呑気にも相槌を打っているようだ。
「つまーり!ここは慢性的な人手不足!!早朝と夜はともかく、昼間の間は2人じゃ間に合わないのよ!」
握りこぶしで力説しているフェリシアにアツェムが反論を試みる。
「でも、私が来る前は2人でしていたんでしょう?」
人差し指を立ててアツェムがそう言うとフェリシアの頭に青筋が立った。
「ええ、そうよ〜。どっかの誰かさんが無駄に!多彩な提案をしてくれるもんだから〜。」
顔は笑っているが目が笑っていないままフェリシアの手がアツェムの頬を引っ張る。
「いひゃい、いひゃいでふって〜。」
哀れにもアツェムの頬は限界まで伸ばされている。
そう、アツェムは店に来る客と親しくなるに連れ、色々な要望を聞いていたのだった。
結果、今この道具屋には棚が並んだ先に小洒落たテーブルとイスがある。
そして店長のいるカウンターには何故かティーポットや様々な飲み物。
外の看板には『〜今日のお薦め〜 ロイヤルテトラクリステンティーとレアチーズケーキのセット』などと言う紙が張られている。
今ここは道具屋と言うより道具屋喫茶、と言うような有様だった。
しかも店長が紅茶やコーヒーが好きで種類に詳しく、淹れる腕もなかなか。
と言うフェリシアでさえ知らなかった事実を明らかにしたものだから現在大いに繁盛してしまっているのだ。
そのため、昼は2人だった時とは比べ物にならないほどの客が来る事になった。
特に平日の昼には近所の主婦や婦女子の絶好の溜まり場となっていて3人でも目が回るほどの忙しさとなっている。
「今日は休日の時とは違ってお昼時は大変なんだから。ほら、さっさと来る!あっ、エリシエさんはゆっくりしてて下さい。ちゃんと夜までには返しますから。」
さらりと人を物扱いし、更にはエリシエが夜まで居るのを確定させた後、フェリシアはアツェムを引きずっていく。
いつの間にやらアツェムの頬を引き伸ばしていた手が首へと移動し、彼の首元をがっちり掴んでいたのだ。
「あらら、ギブギブ、って、ホントに苦しいんですけど・・・・」
そんな声が響くがその元凶は全く聞く耳持たずと言った様子だ。
先ほどの言葉を最後にもう話すことは無いとばかりに彼を引っ張っていく。
次第に彼の手は酸素を求め中を彷徨う様になった。
床を引きずるような音がエリシエの横を通り過ぎ、品物の棚を過ぎ、カウンターまで伸びていく。
ちなみにその行程の中ほどで酸素を求める者はモノへと変わった。
既に彼の顔は青から白へと変わって、体はピクリともしない。
エリシエは一瞬、引きずられて行く人型が自分に向かってすまなさそうな目をしているのを見た。
もっとも、すぐにそれは物言わぬ人型に戻り、カウンターへと引きずられていったので、見間違いかと思ったが。
「え〜っと、僕、どうしたらいいんでしょうか・・・・?」
今まで場の勢いに圧倒されていたエリシエがポツリと、誰に言うでもなく呟いた。
いや、本人は声に出して言った事すら気付いていないであろう。
アツェムが消え行く様を目の当たりにして呆気に取られ、口からつい滑り出た、と言う感じだった。
|
|||
|
|