白雪の町 〜学者と竜と蒼昌刀〜
「この店に、昔の物に詳しい店員さんが居るって聞いたんですけど・・・・」
眼鏡をかけた青年が店長にそう話しかけるのがアツェムの耳に入ってきた。
「ああ、アツェム君の事ですね。アツェム君、お客さんですよ。」
そういうと、店長はいつものようにアツェムと言った男を手招く。
「はい、何か御用ですか?」
微笑みながら彼らの元へと行くと、アツェムと呼ばれた男は青年を見た。
すると、見られた青年の方はなにやらゴソゴソと腰のバッグを漁り始めていた。
そして、彼は一冊の古文書らしきものを取り出す。
今回の物語は、このたった一冊の古文書から始まる。
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数時間後、アツェムは眼鏡をかけた青年に古文書で使われている文字の説明をしていた。
本来なら本の内容を話すはずなのだが、彼が一節、いや、一行を読む度に青年が
「この単語の意味はこうじゃないんですか!?」
と、つっかかって来るので結果として文字の説明をする形になってしまったのだ。
「良いですか、クヴィルは「光」じゃなくて「洞窟」と言う意味なんですよ。そうじゃないとこの文は「遥か東のロイメルと言う地方には竜の住む光がある。」になってしまうでしょう?これじゃおかしいですよね。」
アツェムが教師のような口調で言うと、
「ええ!?これは「遥か東のロイメルは光の竜を持つ国だ。」じゃないんですか!?」
眼鏡をかけた青年はアツェムと全く違う意味の取り方を言ってくるのだ。
「それじゃあこの後の文章につながりませんよ。ほら、その解釈だと「その光は深く、入った者にはすべからく断末魔の叫びが与えられた。」になるでしょう?」
そうアツェムが言うと、彼はその後の文章を読み始め、自分の見解が違う事に気付く。
全部が全部と言うわけではないが、始終こんな調子だった。
その結果、解読は日が傾いてきた頃にようやく十分の一が終わった程度の進み具合となってしまった。
普通ならこの三分の一程度の時間でとっくに全て解読できている筈である。
「さて、一息入れましょうか。疲れたでしょう。」
彼がそういい終わる前に、既にもう一人の店員。
この店の看板娘のフェリシアが飲み物をトレイに入れて持ってきていた。
「はい、喋ってばっかで喉乾いたでしょ?」
そういってテーブルに飲み物の入ったコップを三つ置いて、自分も空いていたイスに座る。
「ねぇ、この本ちょっと見せてくれる?」
飲み物片手にフェリシアは唐突に眼鏡の青年に尋ねた。
「え?ああ、はい。良いですけど、汚さないでくださいね。」
その彼女を道具屋店員として見ていないかのような発言にフェリシアは内心むっと来た。
が、本人に悪気があるようには見えなかったので、とりあえず流す事にしたようだ。
「・・・・ねぇ、」
だが、本を見た彼女は流す事の出来ない問題を見つけてしまった。
彼女は彼にこれでもかと言うほどの疑惑の目を眼鏡の青年に向けていた。
「は、はい?」
睨まれているかのような視線に怯みながら、眼鏡の青年は聞き返す。
その様子を見たアツェムは、そ知らぬ顔で飲み物を飲んでいた。
「これ、見た感じ2000年前なんてモンじゃないわね。何でこんなの一個人が保有してるの?」
そう、彼の持ってきた古文書はかなりの年代もので、こんなものは王立の研究機関にしかないはずのものだったのだ。
「え・・・、いや・・・・あの・・・」
青年の方はというと、おろおろとしてどもってしまっていた。
「あなた・・・・まさか、泥棒?」
フェリシアの目が険しさを増す。
青年は、
「え、え、い、いや僕は・・その」
余計におろおろし始めた。
ついに彼女の手が彼の手首を掴み、押さえつけようとすると―――
「はい、ストップ。」
ついさっきまで飲み物を飲んでいた白髪の青年の手が、彼女の手を遮ったのだ。
「ちょっ!何で止めるのよ!もしかしたら国家的遺産を盗んだ大悪党かも―――」
彼女が言い終わる前に白髪の青年は笑って言った。
「そんなわけ無いでしょう?そんな大切なものが盗み出されたならもっと大騒ぎになってる筈ですし、何より彼の襟元の印を見て下さい。」
「はっ?」
あっけに取られたようにフェリシアは眼鏡の青年の襟元を見た。
そこには、エリシエム王立特別遺跡研究機関、通称「特研」の紋章が付いていたのだ。
彼女の顔から見る見る血の気が引いていく。
「ま、まさか・・・・特研のお偉いさん?」
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