「あ、ああ・・・・」
逃げなきゃ。
警鐘が鳴る。これは危険だと、今すぐに逃げろと。
彼女は一つ自分が大きな勘違いをしていたことに気付いた。
助けるという事は相手を殺す事に繋がると思っていなかったのだ。
適当に相手をのし、気絶でもさせてくれると考えていた。なんて勘違いだろうと、彼女は自分を呪い、頭が逃げろと言ってるにも関わらず、そこに跪いた。
いや、跪かざるを得なかったのだ。
彼女の体から力が抜けていく。
それは目の前にいる者へ対する恐怖なのか、自身の所業に対する絶望なのか彼女には理解できなかった。
だが、どっちにしろ彼女の体は動く事を拒否してしまった。
「嘘・・・・」
跪いていく間に彼女はそう呟いた。
頭では判っている。十分すぎるほど判っているのに、彼女は信じたくなかったのだ。
「願いはかなえた・・・」
その目の前で、黒い影が濁った声で彼女に告げる。
「違う、こんなの、・・・・」
呆然と、自分が思った結果と現実に起こった結果とのあまりにも大きいギャップに彼女が呟いた。
だが、そんな事はお構い無しに、まるで機械の様に、ただ黒い影は言い続ける。
「願いはかなえた・・・・ねがいはかなえた・・・・ネガイハ・・・・」
その声に、この事実を拒否したいが為に、あえてその事について考える事をしなかった頭が無理矢理現実に引き戻される。
「・・・・・違う・・・・・・・違う!違う!!こんな・・・・こんなの、願ってなんかいなかった!!!」
彼女の目から涙が溢れる、彼女は泣いていた。泣きながら影に抗議した。その赤く染められた両手で耳を塞ぎながら。
そこへ、影がやっと、違う言葉を吐き出し始める。
「否。これは汝が望んだ事、自身を助けろ。・・・・我はそれを叶えたのみ、汝を知る全てのものがこの世より消えれば、汝を害する者は無い。」
「・・・・・・え?」
なにか、彼女の中で引っかかる言葉があった。
今、何て言った?これはいまなんてイッタンダロウ?
ワタシヲシルスベテノモノ・・・・・・・・・?
聴きたくなかった言葉、言って欲しくなかった言葉、・・・・・理解したくなかった言葉。
だが、彼女の頭は無情にも、その言葉の意味を理解してしまった。
「ま、まさか・・・・・・・・・。」
彼女の顔が急激により一層青ざめる。しかし、心臓の鼓動はそれに反するように異常なほど勢いよく動いていた。
途端に彼女は走りだした。願いを叶えたと言う影など今はもう目に入っていない。
彼女の頭に浮かんだ人達、あの町の、彼女を今まで支えてくれた人達。
その全ての人たちを思い、彼女は走った。
そして、見てしまった。その全ての人たちだったモノを・・・・・・・
彼女の希望。その全てが消えた。彼女は自分を知る者一人一人の家を全てを回った。そして、全て見てしまったのだ。
かつて人であり、そこで生活していたであったであろうモノを。
それを一つ見るたび、彼女の中の何かが壊れていく、ボロボロと、まるで砂で出来た城が波に崩されていく様に。
「誰か、だれかぁ、ううっうううっ。」
泣きながら、彼女は最も居なくなったと自覚したくない人物の所へ行く。今まで親のように自分が接してきた相手、そう接してくれた相手。
大丈夫だ、あの人がそう簡単に。
そう言い聞かせて、最後の希望に縋り付く、そして、
「店ちょ・・・・・・・・・!!!!!!!!」
その時、彼女の希望は、砕けて消えた――――――。
「てんちょう・・・・・嘘ですよね。ねぇ、ほんとは私を驚かせようとか言うんでしょ?ねぇ、あの人達も、そうなんでしょ?店長?てんちょう・・・・・」
そして、何かに気づいて彼女が床を見る。そして、床に転がっているナニカと彼女と、目が合った・・・・・。
「あ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
彼女の口から叫び声が出る。彼女自身叫んでいると判っていない。もう何も彼女は考えていない。ただ叫んでいる。
その、自分の目の前の、狂景に。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
叫びながら、彼女は走る―――走る、全てを忘れるために、走る―――――――。
ガチッ、バタン!!!!!
鍵を開け、自分の場所、自分のテリトリーへと逃げ帰る。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・・・」
ここには狂気は無い。もう何も見ない。ここには何も、無くすべき者は無い。
そう考え、逃げ帰る。そして、その目に映ったものは・・・・・・・
昨日、二人で手当した筈の・・・・・・・・
動物の・・・・・・・・・・・・・
モウ、ドコニモニゲバショハナインダ・・・・・・・
彼女の頭を狂気が蝕む。
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