男の顔が真っ赤になっている。相当激昂しているようだった。
だが、状況は自分達が格段に有利と判ると、すぐにまたにやけ顔になった。
「うっふふふ。このペット、躾がなってないなぁ。ねぇ、お前ら、ちょっとこれ躾けてみてよ。僕が見てる前でさっきの台詞言わせる事が出来たらさ、報酬の三倍を払ってあげるよ。もちろん、五体が満足なら何をしたって良いよ。泣こうがわめこうが、気絶したって構うもんか。ふふふふ、見物だなぁ。」
もう男達に理性は無い。こうなっては彼女にはどうする事も出来ないだろう。
彼女もそれを判ってか、顔に怯えの色が浮かんでいた。
「い・・・・嫌。」
男達が近づいてくる。そして、集団で襲い掛かったかと思うと、彼女の衣服を思い思いに破き始めた。
「い、いやああああああああああ!!!!!!」
彼女の脳裏に最悪の出来事が横切る。
嫌だ、何で、助けてよぅ。誰か、いやだ、いや、いやああああああああ!!!誰か!!助けてよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
彼女の心身から悲鳴が上がる。すでに衣服は引き裂かれてボロボロだった。
このまま行けば数分後には彼女の脳裏によぎった事が行われていただろう。
だが、そうはならなかった。
「・・・・あ、れ・・・?」
一瞬、目を瞑っている筈なのに、雪が降ってくるのが見えた気がした。
そして、その瞬間から、辺りの音が消えた。
「望みしは――――汝か?」
「・・・え?」
意外な言葉に、彼女の目が開かれる。
「自身を助けろとは、汝の願いか?」
そして、彼女は気付く、辺りの人間が止まっている事に、そして、空から降る、白い、白い雪に。
目の前の影に吸い込まれるように立ち上がった彼女の頭に、この町の伝説が浮かんでくる。
大昔、この場所でとある聖女の願いを天が聞き入れ、そして、願いが叶った時季節は夏だというのに雪が降った・・・・と言う伝説。
「願い・・・貴方は・・?」
彼女の目が驚きに見開かれている。
助けてくれる・・・・私の願いを叶えてくれる?
彼女の中から徐々に、しかし確実に恐怖が消えていく。
「自身を助けろとは、汝の願いか?」
影が繰り返す。
繰り返されたその言葉に、まるで全ての災いから救われた様な希望に満ちた顔をしながら、彼女ははっきりと、そして力強く答えた
「はい、そうです。私の願いを、叶えて下さい。」
言った瞬間。さっきまで立っていた筈の彼女は時間が止まる前の場所に戻っていた。男達の声も、何もかもが元通りだった。
だが、彼女の様子は違う。いまや恐怖の表情も消え、口元は微かだが笑っていた。
もうすぐ助けが来てこんな奴らのしてくれる、そしたら、こいつら皆警備隊に突き出してやるんだから!
そう思うと、彼女はこの男達に対して優越感を覚えずにいられなかったのだ。
彼女のその表情の変化、自分達に対し臆さない態度に彼らは一瞬不思議がるも、行為を続けようとした。
瞬間、男達の動きが急に止まる。
彼女に触れていたその全ての手が、まるでまた時間が止まったかの様にピタリとやんだのだ。
そう感じた矢先には、彼女の顔にはぬめった感触の液体が勢いよく降りかかってきた。
とっさに目を瞑ってしまった彼女を、鉄臭い液体が止む事もなく次々と覆っていく。
目を開けてみると、そこには、全てを忘れさせてしまうような一面の、紅色―――――――−。
彼女の心が、目の前の光景を考える。
あ、れ・・・?この人たち、・・・・首が、無い?さっきまで、動いて?
と、、彼女が朦朧としたまま周りを見る。
あれ?皆、首が無いや・・・・首が・・・え、?でも、それって、?
段々と彼女は意識がはっきりしてきた。そして、理解した。
そう、さっきまで笑っていた男達の首が、無くなっているのだ。
辺りは一面の紅、自分の手も、足も、体も、顔も、男達の撒き散らした紅に染まっていた。
死んでいる
その言葉が彼女の頭を、思考を、全てを埋め尽くす。
「き、・・・・きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫。まるで天地を引き裂かんばかりの絶叫が建物内に木霊する。
「ああ、あああ、だ、誰か、誰かああああ!!!!」
助けを呼ぶ、だが、誰も来ない。辺りにあるのは自分と、さっきまで動いていた、首の無い、モノになった者達だけ。
そして―――――
彼女は見る。目の前の黒い影を。
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