「はぁ、全く、確かに勘違いしたのは私だけど・・・何でここまでしなくちゃなんないのかなぁ」
包帯とタオルを数枚、棚から持って行く途中、フェリシアは随時ぼやいていた。
「運が無いというか、まるで漫画みたいな展開よねぇ。この後はこれがきっかけで壮大な事件に巻き込まれたりとか・・・・・・はぁ、バカバカし。」
階段をそう呟きながら上りきった後、廊下を歩き部屋前まで行きドアの向こうに話しかけた。
「言われた通り包帯とタオル持ってきましたよ。」
そう言うと、ドアが開かれ、中から優しそうな男が一人出てきた。全身は引っかき傷などでボロボロである。
「ああ、どうもありがとう御座います。いや〜すみませんね。手持ちの道具では足りなくて。」
ははは、と笑いながら男は言った。
そして、彼女から荷物を受け取ると部屋の奥にいる小動物の元へと歩いていった。
現在その動物はよく眠っており、彼がタオルで包み、傷を消毒しても一向に起きる気配が無かった。
その様子に違和感を覚えフェリシアが途中
「ねぇ、その子、ちゃんと生きてますよね?」
と聞いた程だった。
だが、ちゃんとその動物は息をしており、本当に何も気にならない様子で寝ていた。
そして、それを確認したフェリシアが不思議がっていると、彼が話し始めた。
「ああ、少々眠くなるお薬を打ちましてね。大丈夫ですよ、特に危険なものじゃありませんから。」
と、笑いながら彼女に説明した。
「そんな便利なものがあるなら、あの時さっさと使ってればよかったじゃない。」
ぼそっと口から出た言葉に彼が弁解する。
「ああ、これは結構打ち所が際どくて、外すと効果が無いんですよ。それにあの時はいきなりでしたし、ははは。」
と、また笑う。
「それにしてもあの時は驚きました。いきなり角から木の棒を持った女性が襲い掛かって来たんですから、もう私は何事かと・・・」
と、寝ている動物に包帯を巻きながら彼が言った。
「もお、それは言わないで下さい!あの時は誰かが襲われてると思ったんですよ!!」
顔を赤くしてフェリシアが投げやりといった口調で言った。
「はは、まあ、確かに襲われてましたけどね。」
と、全身の引っかき傷を見ながら言った。
「ですが、貴女が来てくれたおかげで無事彼の治療もできた事ですし、助かりました。」
と言って、包帯を結んだ。
「その子、一緒に旅してるんですか?」
包帯が巻き終わり、小動物の頭を彼が撫でた所にそんな質問が投げかけられた。
「いえ、違いますよ。」
と、彼はあっさり否定した。
「じゃあ・・・」
と、続けようとするフェリシアを彼が遮る。
「しぃ。薬が聞いてるとは言えあんまり騒ぐと起こしてしまいますからね、下に降りませんか?」
と、提案した。そして二人は1階のリビングへと降りた。
「彼とはあの場所で知り合いまして、怪我をしていたので治療して差し上げたまでですよ。」
と、手に彼女の入れた飲み物と持ち、笑いながら彼は言った。
「へぇ、あれだけ引っかかれながらよくそこまで治療する気になりますね・・・・」
と、全身ボロボロの彼を見ながら彼女が物好きを見たような口調で言う。
「あはは、動物が好きでして。ああ、そうそう、まだきちんとお礼を言っていませんでしたね。」
そう言うと、彼は彼女を正面から見据えた。
「この度はどうも、困っている所を助けて頂いて、本当にありがとう御座いました。」
そう言って彼が頭を下げた。
「いえ、気にしないで下さい。これも何かの縁ですよ。」
と、飲み物をテーブルへ置き、笑いながら彼女が言う。
実際、往来のど真ん中で小動物と格闘していた彼の
「すみません、この子を治療したいのでタオルとか貸してもらえませんか?」
と言う唐突極まりない願いを聞き入れ、更に家にまで入れたのには、彼女も動物好きであると言う事と、彼が人が良さそうだったと言う事以外に理由があるのだが、それを言う事はしなかった。
それから二人は意味もない雑談を繰り返した。もう辺りは暗くなっていたので彼女が一晩泊める事となり、彼女は彼に色々な事を聞いていた。
「へぇ、それで?それからどうしたの?」
と、彼女は楽しそうに彼の旅話を聞いていた。
彼女は旅などした事も無く、その為ほかの町の様子や変わった話などにも乏しい。
それ故、一晩の宿泊代にと、彼から旅の話を聞いていたのだ。
彼は色々な話を持っており、三つ程話を聞き終わった頃には、彼女は彼に対し友人と同じように接していた。
「・・・・・と、そう言う訳です。まあ、あそこにはもう行きたくないですね。」
と、幾つ目かの話が終わる。外はもうすっかり闇一色だった。
「さて、そろそろ寝ましょうか。明日も早い事ですし。」
そういって彼が外を見た。
「ええ、そうね。明日はもう此処を発つの?」
と、彼女も窓を見ながら答えた。
「いえ、もう少し居ますよ。」
「そう、私は道具屋で働いてるから、暇な時にでも遊びに来て、歓迎するわ。それと、あの子は私が責任を持って面倒見るから、心配しなくて良いわよ。」
と、笑いながら彼女が話す。
「ええ、ありがとう御座います。フェリシアさんには一宿と彼の事でのご恩がありますからね。何か買わせていただきますよ。」
「ふふ、毎度あり。」
と、互いに笑いながら深夜の雑談会はお開きとなった。
「そういえば聞いてなかったけど、あなたって何で旅してるの?」
寝室に行く途中、ふいに彼女が尋ねる。
「少々・・・・探しものがありまして、それを求めて東に西に、ですよ。」
と、何かを探すような身振りで彼が答えた。
「ふーん。私の働いてる道具屋、結構品揃え良いのよ。もしかしたら探し物、見つかるかもね。」
と、彼女が自身ありげに言った。
「ふふ、期待していますよ。では、おやすみなさい。」
「ええ、お休み。」
そうして彼女は寝室へと入っていった。
彼の方はリビングのソファーで寝る事になっていたのだが、彼女が寝室に入ってまもなく、彼の姿はもう、家の中から消えていた。
何の音も発せず、存在感も持たず、彼は夜の闇へと溶け込んで消えた。
彼の残した紙切れが、彼がここに確かに居たのだと言う事を、ただ誇示していた・・・・・。
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