家の入り口で彼が右半身で彼女の全身を使っての歓喜の抱擁、左半身で食い物が無くなり夜遅くまで待たされた小動物の猛攻を受ける事数分。
彼女はまず空腹な居候に遅い夕食を作ってやり、そして二人は今リビングに向かい合う形で腰掛けていた。
「で、説明してくれる?実際、色々有り過ぎて訳判んなくなってるんだけど、取りあえず先ずは・・・・・・やっぱ先ずは自己紹介から!」
確かにお互い名前は言ってませんでしたが、この状況で先ずするべきがそれですか・・・・・・
と、なんとも間抜けな提案に気の抜けたアツェムであった。
「私はフェリシア・・・フェリシア・アノン。何をしてるかは昨晩言ったわよね。」
と、自身を名乗る。
「アツェム・ガルジャスです。今は、・・・・そうですね。今更隠す必要も無いでしょう。今は魂喰らいを狩る旅をしています。」
アツェムの方も彼女に習い自己紹介をした。そこへ間髪入れず
「それよ!!」
と、彼女がビシッと彼を指差す。
「・・・・・・・はい?」
アツェムが何事かと聞き返す。
「その、魂喰らいって何なの?あんたもあいつ等と・・・その、元、お仲間なのよね、確か・・・アツェム・イェツ・ガルジャスって、呼ばれてたじゃない。」
言い難そうだが、確かな疑問を彼女は聞いてくる。
だが、彼の方はその質問に戸惑う事なくあっさりとその全てを語り始めた。
「ええ、そうですよ。魂喰らいと言うのは、そうですね。御伽話に出てくる悪魔みたいなものですよ。何か願いを叶える代わりに魂をよこせと、こう言う訳です。因みに願いの叶え方も乱暴極まりない。そう言う訳ですから、今の私はイェツが無くなって、アツェム・ガルジャスな訳です。」
彼の説明でなんとなく納得したのか、彼女はそこから次の質問を始めた。
「その、あんたが私たちの味方ってのは判ったけど、どうやって人間になったの?ほら、言ってたじゃない。再構成先だとか、もう魂は食べれないとか、さ。」
「ああ、これの事ですね。」
そういって彼は左手の文様を見せる。
そこには大きさの違う円形が三つと、その円の中に理解不能の文字がびっしりと書かれていた。
「これはイェツ・ナ・ロンド・レグバリウスと言うんですよ。」
ニコニコと笑いながら名前を言うが彼女には訳が判らなかった。
「え・・っと?イェツ・・・ナロン??」
イェツ・ナ・ロンド・レグバリウス
「『消魂喰生再の印』ですよ。ええと、簡単に言うとですね、魂喰らいから別の生き物になるための物でして。これで私は人間の眷属みたいな形になった訳です。尤も、別の生き物になると言っても食べ物が変わったりするだけで、根本的な力とかは変わりませんけどね。」
「え〜と、つまり、人間の親戚みたいなモンになった訳ね?」
「まぁ、そういうことです。」
彼女にはよく理解できなかったが何とか納得させたようだった。
「でもさ、何で――――」
何故人間になったのか?
そう質問したくなったが、そこで彼の言っていた台詞が蘇った。
―――――「人間にね、惚れてしまいまして。」――――
「何ですか?」
聞き返す彼にフェリシアは急に気恥ずかしくなり、
「えっ?ああっ、その〜、ああ、そうそう!!あんた達の名前って何か意味があるの?」
と、話題を逸らしてしまった。
「ん?ええ、ありますよ。例えば、先刻話したイェツは魂喰らいでしょう。フェルマさんのフェルマって言うのは白、私のアツェムは青、と言う感じになっています。判りませんでしたか?」
「そんな言葉聞いた事も無いわよ。」
そこに少し考えて彼女がそうぼやく。曲がりなりにも彼女も道具屋の一員であり古文書を扱う事もあるのだ。
その彼女に判らない言葉があると言うのが不思議であり不満だった。
だが、彼の方はそっちの方が意外だったらしい。
「ええ!?そんな筈は、無いと思いますけど・・・・ほんの6000年前にはこの言葉以外に言葉と呼べる物なんて無かった筈ですし・・・・・」
「そんな昔のモンが判るか!!」
盛大にツっこまれた。
この世界に現存している古文書は精々そこ2000年前以前の物が殆どで、それ以降の物は文化遺産として一道具屋の店員では見る事さえ叶わないのだ。
「それって古文書で使われてるアルツェリア文字より随分前じゃない!!そんなの王立の研究機関でも解読できてるかどうか・・・・」
そう言われてアツェムは少し思い出すような仕草をして、
「はぁ、アルツェリア文字ですか・・・・そう言えば少し前そんなものがあった様な気も・・・でもあの文字はイマイチ使い辛くて・・・・・ははは」
と、笑い混じりに言った。
それを聞いていたフェリシアはある事に気が付いた。
「あーっ!!ひょっとして昨日の手紙も!!」
今朝店長に見せた手紙の事を思い出したのだ。
「ああ、あれですか。ちゃんと失礼の無い様に置手紙を残して行ったんですけど、どうやら気付いて頂けた様ですね。」
安心する様子の彼に彼女が言う。
「だから、なんて書いてあるか判んないんだって!!もう!!文字が違うなんて宿屋とか見ればすぐ判るじゃない!!」
・
・
・
|
|||
|
|