「やれやれ、年長者は敬えと、教わらなかったのか?」
「「「!?」」」
いつの間にそこにいたのか、老人のすぐ横に、青年が立っていた。
漆黒の剣に漆黒の鎧、端正だがどこか邪悪な雰囲気をかもし出す青年は、この場にいる誰もが気付かない程の希薄さでそこに立ち、賊の剣を切り、そして今は誰もが目を奪われるような濃密な気配を放出してそこに居た。
言うまでも無く、マグナスである。
「な、なんだ手前!」
「ど、どっから沸いて出やがった!」
当然の如く威嚇をする賊たちだが、突然現れた人物の発するそのあまりに異様な気配ゆえか、語気に力が入っていない。
しかし、相手は数十人、こちらは手負いの老人と剣士が一人。
普通ならばまず相手にならない。
それもあってか、賊たちが次第に余裕を取り戻し始める。
「おいおい、正義感が強いのは良いけど死んだら元も子もないぞ」
「いいんじゃねぇの? おれちょっと殺り足んなかったんだ」
「ずりぃぞ、おれにも殺らせろ!」
と、口々にマグナスを殺す算段を立て始めた。
そこに来て、ようやくマグナスが口を開く。
「二度は言わぬ、死にたくなければ、消えろ」
いかにも不機嫌丸出しな言葉使いである。
マグナスを知る者ならこんな時彼に近づくことはしない、ましてや襲い掛かるなどもってのほかである。
だが、不幸にも目の前の賊たちは彼の恐ろしさを知らない。
そしてその後自分達が見る地獄も、
「調子にのんな小僧!」
賊の一人の掛け声と同時に、四人がマグナスに一斉に襲い掛かる。
「む、無茶じゃ!! 若いの!! 逃げ――」
「怪我人は黙って寝ておれ!!」
老人を一喝し、マグナスは四人に向かって走り出す。
「ったく、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も!!」
勢いをつけて、一閃。
容赦ない一撃を地面に叩き込むと、そこから生まれた衝撃波が四人の男達をいっせいに吹き飛ばす。
「「「「ひ、ひぎゃああああああああああ!!!!!」」」」
だけでは飽き足らず、その後ろに控えていた十数人の男達をも巻き添えに衝撃波は空高くへと舞い上がり、男達は十M近く跳ね上げられた。
そこへ、今度は剣の腹を横にして周りを仰ぐような形の薙ぎを左から中央に向かう形で一閃。
「「「「「うわああああああ!!!!!!」」」」」
右から中央へ向かう形でもう一閃。
「「「「ひ、ひえええええ!!!!!」」」」
これに最初の一閃を受けた者達が空の旅路より帰還して、ちょうどマグナスの正面に賊全員が集まる形になる。
そこで、いつの間にか剣を持っていないもう一方の手を空高く掲げているマグナスが賊たちの目には映ったはずだ。
マグナスの片手には魔力により収縮された、にもかかわらず恐ろしい大きさの火球が準備されていた。
これが解放されれば辺り一面火の海であろう事は明白だ。
「あ、ああ、あ」
賊があまりの恐怖に声を忘れるとほぼ同時、マグナスが吼える。
「いい加減に、せんかああああ!!!!!」
今までの賊退治の鬱憤か、はたまた王国警備隊への鬱憤か、ともかく、恐ろしい程溜りに溜まったマグナスの不満をこの賊達は一身に受ける事となった。
「「「「「「ひ、ひぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
尽きる事の無い悲鳴と火炎地獄の音は、途切れる事無く数刻の間その場を埋め尽くした。
見るもの全てに世の無常とこの上ない絶望を植えつけんとする地獄絵図が、ようやく終わりを迎える。
かろうじて命はあるものの、見るも無残な消し炭と化した男達を見て、マグナスは心底満足そうに頷いた。
「ふっ、下郎が、我の忠告を無視するからこうなるのだ」
邪悪な笑いとその力に、助けてもらった老人が見る見る青ざめていく。
「おお、ご老体、御身は無事か?」
そこへ、くるりと百八十度体の向きを変えマグナスが近づいていくと、
「は、ははひ、はい!! な、なななんとお礼を申し上げてよいやらじぶんはおうこくきしこのえたいのものでございましてからにあのそのはい」
賊たちへ向けた気迫は何処へやら、狼に睨まれた羊といった様子で老人がヘコヘコとへつらった。
「はは、まあそう硬くなるでない、喰うたりせん」
明らかにおびえてる様子の老人をなだめる事十数秒、やっと老人に落ち着きが戻る。
「こ、このたびは危ない所を、かたじけない」
「いや、気にするでない。ところで、他に人はおらんのか?」
マグナスが周りを見て言う。
それを聞くや否や、老人が大慌てで馬車のドアに駆け寄った。
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