「き、貴様ら! この馬車に乗っておられる方が誰か分かっておるのか!!」
馬車を操作していた騎士姿の初老の男が敵意をむき出して叫んでいる。
そして周りには、数十人に及ぶ賊と思しき面々。
「はあ? 爺が! んなモン知るかよ。」
「ま、俺的には美人だったら嬉しいかも」
「あ、俺も俺も!」
「じゃあ、さっさとこの爺を殺りますか!」
賊は口々に勝手な事を言いつつ、じりじりと馬車への距離を縮めていく。
既に馬車を引くべき馬、護衛をすべき兵士は多数の矢をその身に受け、物言わぬ抜け殻と化している。
「くっ、護衛が少ないのが仇となったか、だから儂は反対だったんじゃ」
愚痴りつつも馬車にいる人物だけは守らんと、老人は腰に帯びている剣に手をかける。
「おお、抵抗する気だぜ?」
「よ〜し、じゃあ、まずは小手調べだ、っと!」
言うが早いか、賊の一人が老人に斬りかかる。
「なんのっ!」
正面からそれを受け、反撃に転じようと老人が身をひねった瞬間――
ゴキッ
「はうっ!!」
老人の腰が音を立てて崩壊した。
「「「……」」」
沈黙
「ぐう、こんな時に!!」
老人は痛みに剣を落し、悔しそうにその場に倒れた。
唯一の救いといえば、老人と剣を交えていた賊までもが突然の事態に毒気を抜かれ、剣に込めた力が緩まり、老人に剣が突き刺さらなかった事だろう。
だが、それも一瞬。
「ぎゃはははは!! ご無理はいけませんよぉ、おじいちゃーん」
「ひ〜、ひ〜、さ、最高!」
「げらげらげらげら!!」
周りから一斉に笑われ、侮辱され、老人が悔しそうに顔を上げる、と
「おもしれーもん見せて貰ったぜ、賞品にこの剣をやるよ」
目の前に、剣が振りかざされ、
「心配しなくても即死だぜえ!」
勢いよく振り下ろされた。
「っっっ!!!」
老人は真っ二つに切り裂かれたと、誰もが、老人自身でさえ思ったが、
「なっ!?」
剣を振り下ろした賊が困惑の叫びを上げる。
おそらく真っ二つにされたのが、賊の剣の方だったからだろう。
音も無く、賊の剣は柄と刃に切り分けられてしまっていた。
何が起こったのか、その場にいる誰もが理解できずに呆然とする。
一瞬の静寂、その空気さえ流れるのをやめてしまったかのような場で、どこからか声が響いてきた。
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