「では、我はもう行くぞ」
 広場で礼を言われ続けて数分、マグナスがそう言って待ちの出口の方へと向かった。
「ええ!? せめて今晩だけでも私の宿に」
「私の道具屋にも、」
 複数の商人達が名残惜しそうにマグナスを引きとめる。が、
「すまんな、また今度だ」
 すまなさそうに言うマグナスを見て、意外と商人たちは潔く諦めた。
 彼の気持ちが伝わったのだろう。
 彼の眼光に怯えたわけでは多分、無い。
「そ、そうですか、残念です。もし今度この町に来た時はぜひ私どもの店へお越し下さい」
「ふふ、よかろう」
 辺りの感謝が冷めやらぬうちに、マグナスは支度を整え、早々に町を出て行った。
 町の出口付近では最後まで彼を見送っていた数人の町人がマグナスが去っていった方を見ながら話をしていた。
「行ってしまったなあ」
「ああ、外見はともかく、立派な剣士様だったなあ」
「そうだな、最初見た時なんか魔王の再来かと思っちまったよ」
「そういえば、二十年程前に倒されたって言う魔王と格好が似てたよなあ」
「魔王グランか、漆黒の身なりといい確かになあ」
「でも中身はぜんぜん違うぞ」
「まったくだ、あんな魔王なら大歓迎さ、今度お越しになられたときにはお礼も兼ねて宴でもするか」
「そりゃあいい考えだ」
「ああ、また来てくださるといいなあ」
 そんな風に町人達が話し込んでいるとき、
 マグナスは既に次の町との間にある森を抜けている最中だった。  
「やれやれ、どうにも転生前の記憶が残っているというのは不便なものだ」
 などと言って高々と育った草むらを掻き分けると、マグナスの目に進路を塞ぐかのように大木が連なって生えている光景が写った。
「でもまぁ、生前の魔力や技が持ち越しできるのは、悪くない」
 あくまでも正面を見据え、マグナスは大剣を横に、木々を薙ぐように振るう。
 とたんに、けたたましい風の音が辺りに満ち、次の瞬間には、既に彼の眼前にあった複数の大樹は皆なぎ倒されていた。
「ふっ、愚物が、わが進路を阻もうなど千年早いと知れ」
 物言わぬ木々にまで語りかけるのはどうかと思うが、マグナスは満足気に頷いていた。
 その後マグナスは一旦腰を下ろし、おもむろに地図を開いた。
「ふむ、今我がいるのはここ、か」  
 指を地図に当てながらマグナスが呟く、
「で……ふむふむ、次の町は目と鼻の先、か。なるほど、ここは確か王国の領地だったな。よし、今日中には着きそうだの」
 言うや否や、さっさと地図をしまい、マグナスはまた歩き始めた。
「まさか王国領地に攻める訳でもないのに行く時が来ようとはなあ」
 森の木々の隙間から見える空を眺め、悠然と歩きながらマグナスが感慨深く言った。
「……む?」
 彼の耳が何か、彼の気になるものを拾ったようだ。
「これは……争いの音? 違うな、一方的な略奪……だな。場所は……森を抜けてすぐ辺りか」
 そう判断すると、マグナスが頭をがっくりと落とす。
「また賊か、ここまで来るのに何匹駆除した事やら、王国警備隊は何をしておる。面倒な事だ」
 そう言いつつも、愚痴り終わった時、既にマグナスの体は音源へと向かって駆け出していた。

 

 

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