マグナスは剣を地に突き刺し、人差し指を内側へ向けて動かすが、男は一向に向かってこなかった。
「なんだ、お主も腰をぬかしておるのか、全く、その程度で我が名を語るとは……」
やれやれと、マグナスがため息をつく、この流れで行くと大抵は見逃してもらえそうなものである。
事実、男の目にも僅かだが希望が灯ったようだった。
しかし、現実はそううまくは行かない。
「益々腹立たしい……」
まるで鬼神の如き視線が男に突き刺さる。
「ひぅっ!!」
高々と掲げていた銀色の剣はもはや手から離れており、男はかたかたと何かの玩具の様に全身は振るわせる。
「たッ……たッ……たた、助け、助――」
「やかましい」
一瞬の風切音、無造作にマグナスの振った剣が鎧ごと黒騎士の首を半分ほど切断した。
「けえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
男の赤い噴水をバックに、マグナスが剣をいつの間にか取ってきた鞘に収めた。
「下郎が、罪の重さを知れ」
降りかかる血を避けようともせず、見ようによっては彼の鎧が血でも吸ったかのような装丁になった事で、この破壊劇は幕を閉じた――。
「あ……ああ……」
ミュエルはその光景を見て、そのあまりに現実離れしている様にまるで芝居でも見ているかのような感覚に襲われた。
だが、彼女の目が、耳が、五感の全てが告げている、これは紛れも無い現実なのだと。
そして、こんなのは戦いではない、いや、人間の範疇で括れるべき事ではない、と。
彼は自身で言うとおり、本物の魔王なのだ。
逃げなくては、逃げなくては、逃げなくては逃げなくては逃げなくては――。
「終わったぞ」
「――――っっっっ!!!!!!!!!!!!!」
目の前にいたはずのマグナスから不意に後ろから声をかけられ、腰を抜かしてへたり込んでいたミュエルの体が飛び跳ねた。
「あっ……ひっ……えう……」
ミュエルは声にならない声を何とかつむぎだすのが精一杯の様子だった。
「落ち着け、誰もお主を喰らったりせぬよ」
「喰――!!!」
ふら、と言う擬音がしっくり来るような動作でミュエルの体がふらついたかと思えば、次の瞬間には気を失った皇女はマグナスの手に抱かれていた。
「ううむ、温室育ちにはちと刺激が強すぎたかのう?」
などと少々ずれた事を言いつつ、マグナスは壊れていない宿を探し始めた。
途中、老人が
「ぶくぶくぶくぶく」
と泡を噴いて倒れているのを見つけ、
「最初の時に巻き込んでしまったか、許せ、ご老体」
と意識の無い老人に詫びると、ついでに担いで行った。
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