「おい、そこのナマクラを構えているクズ」
そう言って、マグナスはまだ鞘を被ったままの大剣の切っ先をさっきまで話していた黒騎士の一人に向けた。
とたんに、向けられた男は威勢良く吠え出す。
「て、てめぇ、良い度胸じゃねぇかあ!! ああ!!」
「お〜お〜、ナマクラだってよ、言われてるぜ〜」
「あーあ、こいつ怒らせたらぐちゃぐちゃにされんぞ」
吼えた男の周りで、取り巻きが濁った目をマグナスへと向けて言い放った。
「五月蝿いわ、ハエ共が、皆同時に相手をしてやる。とっととかかって来い」
そう言って剣を抜き、鞘を投げ捨てると、マグナスがこのとき初めて、両手で剣を持った。
「て、手前、立場って奴が分かってねぇらしいな」
「おい、もう遊びは止めだ!! 殺るぞ……」
一人が皆に聞こえるように言うと、黒騎士達から笑いが消えた。
二十数名の黒装束が、一人に向かってじりじりと距離を詰め、
「死ねやああ!!」
「おらあああ!!」
「だりゃあ!!」
刀剣類を構えた数人が一斉にマグナスに飛びかかった。
だが、マグナスは一歩も動かず、そして、言った。
「良い事を教えてやろう」
その言葉が終わると同時に、マグナスが両手で大剣を振るう。
一閃。
それは大地に向けられて放った一撃だったが、黒騎士たちは言葉を失くした。
マグナスが地面に向かって剣を振った瞬間、けたたましい轟音と共に岩盤が地面から飛び出してきたのだ。
正確には、大地が砕かれ、それでも衝撃が収まりきらずその下の岩盤ごと地面が跳ね上がったのだ。
マグナスに向かって行った騎士達はその岩盤にはじかれ、数十Mも跳ね飛ばされた後、激しい音とともに落下、皆地面を数百M転がって、やっと勢いが止まったと言った所だった。
「「「「「「「…………」」」」」」」
一同唖然。
ミュエルも、老人も、騎士達も、挙句は逃げている最中の町人達ですら息を呑んだ。
マグナスの手には、ここまで大地を破壊したというのに傷、いや、刃こぼれ一つ無い黒き大剣が握られていた。
「魔王グランが使いし剣は、混沌の二つ名を持つ唯一無二の黒き神器と呼ばれし物よ」
跳ね上がった岩盤の向こう側で、風が啼いたかのような音が響くと、騎士達の正面に隆起してきた岩盤が冗談のように粉々に砕け散った。
辺りに広がる土煙のその向こうでは、マグナスが、いや、尋常ではない殺意を放つ一対の鈍光が、黒騎士たちを見据えていた。
土煙が晴れぬうちに、騎士達に宣告が始まる。
「汝らが今までしてきた事だけなら消し炭にして許してやる所だが、事もあろうに我の名を語り、このような下劣極まりない真似をしてくれたのだ。魔王の名を語りし事がどういうことなのか、身をもって知るが良い!!」
そこから始まったのは、戦闘ではなく、一方的な虐殺でもなく、純粋な破壊だった。
怯え、立ちすくみ、果ては腰をぬかしている者に対してもマグナスは容赦しなかった。
「「ひ、ひぎぎゅ!!」」
ある者は全身の骨と言う骨が粉末状になるほどの衝撃を受け、
「があああ!!!!!」
ある者は下半身を根こそぎ消滅させられ、
「た、た、助け――」
「そう言って命乞いをした者達を、貴様らは何人常世へ送りつけたぁ!!」
「あぐっ!! ぎっ!! ぐびゅっ!! ひぎぃぃっ!!」
ある者は何度も何度も空中へ跳ね上げられ、ミンチのようになって地へと叩きつけられ、土中へと消えた。
これは虐殺ではない、相手を殺すのではなく、相手の形そのものを壊すのを目的としたこの行為こそ、破壊と呼ぶに相応しい。
狂気と破壊、それに憤怒のレクイエムは終わりを向かえ、ついに黒騎士は最初にマグナスを威圧した者だけになっていた。
「ひッ……ア、あヒィ……」
はじめの威勢の良さは何処へやら、いまや男は完全に腰をぬかし、涙、汗、よだれ、鼻水と体中から水分をありったけ垂れ流しているような、見るも無残な様子だ。
「さあて、最後はお主じゃのう。ほれ、とっととかかってこんか」
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