我こそは……!!
               〜その抵抗の果てに〜


 そこは広く、暗い場所。
 なにも無い宇宙と表すべき場所だろうか。
 生き物を縛る大地もなく、星を縛る力もなく、ただそこに「ある」と言うことのみを純粋に受け入れる場所。
 今そこには二人の、恐らくは男女と思しき人物が対峙していた。
 女性の方は十代前半、一般に少女と言える外見をしていた。
 服装はやけに大人びている黒のドレスだが、それが逆に彼女の体の未成熟なラインを強調してしまい、余計に幼い印象を深くしていた。
 男の方は二十代後半といった所だろう、身にまとっているものが今にも崩れそうな、歴戦を物語る鎧でなく、小奇麗なスーツでも着せたらそれなりに見栄えする容姿だった。
 どうやらこのてんでちぐはぐな組み合わせの二人がこの場所で唯一存在している生き物らしい。
 二人はこの何も無い場所で互いに真剣な様子で向き合い、何かを話しているようだった。

 
「……それが、貴方の決断?」
 ――ああ、そうだ。
「このままいけば全てが手に入ると言うのに?」
 ――我の力でそうなったわけでない。
「また一からやり直すの?」
 ――いーや、ゼロからだ。
「ゼロ?」
 ――ああ、ゼロさ。しかも、やり直すわけではない。
「??……?」
 ――別に良かろう、そんなことは。さっさとするがよい。
「……そうね、貴方が何をしようと私には関係ないもの」
 ――だろうな。ああ、そうそう、
「何?」
 ――お前の上司に言伝だ、糞喰らえとな。
「……行くわよ」
 ――はぁ、相変わらずつれないやつだ。
 少女の両手が男に向けられる。
 数秒の後、彼女の体に幾重もの模様が浮かび上がった。
 それらは彼女の肩口辺りから徐々に掌へと向けて急速に現れ始める。
 ついに彼女の掌に模様が至った。
 その瞬間、カメラのフラッシュのように辺りが眩く光った。
 すると、さっきまで無かった赤い円陣がそこに現れていた。
 それは彼女の正面、ちょうど彼女と男を隔てるように位置している。
 赤い円陣はただぼんやりと光り続け、何のために現れたのかを全く誇示しようとしなかったが、変化は唐突に始まった。
 男の体が青白く光り始めたのだ。
 やがて、男は足先から、まるで砂で出来ていたかのように分解されていく。
 ――……
 だが、男は全く動じた様子も無く、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
 分解は着々と進み、もはや男は胸から上を残すのみとなった、その時。
 男が笑いながら言った。
 ――次に会うときは、敵同士かもな?
 少女が突然の台詞に答える暇も無く、男はこの世界から消滅した。
 ただ一人残った少女も、何を言うでもなく、そこに立っていたかと思えば、既に消えていた。
 そして、場面は流れる。


「やった、産まれたぞ!」
「よくがんばったなぁ!!」
 今この瞬間に、とある村で、とある夫婦に新たな命が授けられた。
 なんてことは無い平凡な夫婦、剣の才能も、魔法の才能も人並み、豊かでも無く貧しくも無い、そんな家庭。
 彼――マグナス・ケルブロウィスは、そんなごく平凡な村のごく平凡な家庭に産まれた。
 そして、十九年の歳月が流れた――
 
 

 

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