黒霧塔
〜砂漠に広がる霧と花〜
ある昼下がり、ある砂漠で、ある少年が
―――――――――死にかけていた。
「はぁ、はぁ、糞ッ!何だってこんな事に!!」
ズサッ!!
力任せに歩いている砂の山を殴りつける。
殴られた砂はその力に身を委ね中を僅かに舞い、また砂の大地に落ちる。
そこからは彼の望む物は何も生まれない。
それは彼にも十分判っていた。
だが、彼の悔しさは砂以外の相手を見つける事も、心の中に押し留めて置く事も出来ない。
彼の心を虚しさだけが占める。
「はぁ、はぁ、畜生!!あの時砂海虫にさえ出くわさなかったら!!畜生!!」
少年は砂漠を旅している民族の中で育った。
昨夜、そこを砂海虫が襲ったのだ。
砂海虫とは、この砂漠に住む最も雑食かつ、巨大な虫の事だ。
体長は小さいものでも10M、巨大なものでは40Mを超えるという。
砂漠では最も会いたくない物の一つである。
「はぁ、そもそも、なぁんで、あンな所に、砂海虫が、あいっつら、出る場所って、決まってンじゃ無かったのかよ!!」
ズサッ!!
苛立ちに任せ彼の拳がまた砂を飛ばす。
そう、砂海虫は出現場所、つまり餌場を滅多な事では変えない。
砂漠に潜み、近づいてきた獲物のみを襲う。そういう生き物の筈だった。
あんな所に砂海虫が出るとは彼らは知らない。ましてや、砂海虫の方から襲って来るなど。
それ故、彼の部族は夜の闇の中散り散りになってしまった。
恐らく彼の様に一人になってしまった者も少なくないだろう。
「はぁ、はぁ、水も食いモンも無い、皆の場所もわかんねぇ、それどころか今俺がどこに居るかもわかんねぇ!!畜生!!!!まだ死にたくねぇぞぉおおおお!!!!!!」
一人砂漠で吼える。
だが、誰もそれに答えるものは居ない。
それどころか、彼の空腹感と絶望感を余計に増すだけになった。
「くっそがぁ、なんか食いもんねぇのかよ!!」
ある筈が無い。そんな事は判っていた。
だが、彼はもう頭があまり回らなくなっていた。
叫ぶ事が余計腹を空かすと判っていても悔しさを撒き散らさずにはいられない。
それが今の彼の状態だ。
「ああーー!!もう!!知るか!!ボケェ!!」
ドサァ・・・
彼の体が砂の上に倒れこむ。
もはや彼に立ち上がる気力も無い。
無駄に叫んだおかげで自分の状況の悪さをより一層実感してしまった様だ。
「はぁ、はぁ、あと何時間で、俺干乾びんだろ。」
そう言って、空を見上げる。
「はぁ、はぁ、あちいなぁ、死んだら涼しくなンのかなぁ、・・・でも、死にたく、ねぇなぁ。」
彼の体を砂が徐々に覆っていく。
まるで絶望が砂に身を変えている様だった。
砂は容赦なく、彼の全てを埋めていく、足、手、体・・・顔さえも。
「・・・・・エホッ!ゲェホッ!ウベェ!!あぁ、ちきしょう〜。」
彼はすっかり諦めていた。
彼の視線が空を流れる。
「ちきしょう〜。腹いっぱい、メシ、くいてぇ〜・・・・・・あぁ?」
煙だ。
彼はそう思った。
「なぁんで煙・・・?・・・あ、幻ね。」
彼の視線の先に黒い煙が移る。
「まぼろし?・・・でも良いやぁ。食いモンが有るかも。」
立ち上がる。
どうせ死ぬなら行ってみても良いと思ったらしい。
そう思うと彼の体は意外と動いた。
「食いモンのためならえんやこ〜ら〜。」
・・・・空腹のせいで少し錯乱していただけかもしれない。
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