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見えていなかったものが見えたとき。
人は何を思うだろう。
< なくしてはじめて >
観客席からテニスコートを見下ろす。
本当なら、自分はあそこに、あの場所に居るはずだった。
―――居るはず、だったんだ。
「大石」
誰かの声がして、目が覚めたようにハッとした。
見ると、手塚が選手ベンチのほうから俺を呼んでいた。
そうだ、帰還の報告がまだだった。
急いで選手ベンチのほうへ駆け寄る。
途中、越前がぼんやりと試合を見ていたので、俺のハチマキを渡してやった。
桃が俺たちのために一生懸命作ってくれたモノだ。
それつけて、しっかり応援しろよ。
「今戻ったよ、手塚。
英ニと桃、がんばってるみたいだな」
「ああ。・・・腕は大丈夫なのか」
「なんとかね。迷惑かけて悪かった・・・ごめん」
不思議だな、手塚。
今、こんな風に、観客席側とベンチ側でフェンス越しに会話するなんて―――。
あ!
また英ニがポイントを入れた!
良いテンションだな、英ニ。
桃もがんばれ!
腕に書いたアドバイスを元にしてプレイすれば、きっと上手くいくはずだ。
二人とも・・・がんばれ――――。
「・・・ごめん」
不意に俺の口から出た言葉に、手塚が怪訝そうな顔をする。
「それはもう聞いたはずだ。気にすることは―――」
「そうじゃなくて」
そうじゃ、なくて――――。
「・・・試合に出られないもどかしさとか」
左手でフェンスをきつく掴む。
ガシャッと、大きな音が響いた。
「何かを無くしたような喪失感とか」
掴んだ手を強める。
「仲間の大切さとか」
もっと、強める。
「そういうコト、いろいろ」
もっと、もっと。
「ちゃんとわかってるつもりでいて・・・何も、わかっていなかったから――――」
錆びたフェンスに傷つけられ、赤い血が流れてくる。
その瞬間に、涙も溢れてきた。
「ごめん・・・ごめん・・・ありが・・とう・・・」
静かに泣いて。
それでも、手を緩めようとはしなかった。
痛いままで、いたかった。
見えていなかったものが見えたとき。
人は何を思うだろう。
俺の場合は――――
とりあえず、見えないフリをするのだけはやめておこう。
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